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漢方偉人伝 沈自南(ちんじなん)

「西漢方薬店 漢方チャンネル」に「漢方偉人伝 沈自南(ちんじなん)」を公開しました!

沈自南 ― 中国古代の食文化を体系化した『芸林彙考・飲食篇』

清初の博学な医食学者

清朝初期の学者・沈自南(しんじなん、1612–1667)は、江蘇省呉江県の出身で、字を留候、号を恒斎と称しました。
彼は史学・文学・医学に精通した多才な人物であり、その博識と研究熱心さから「芸林の碩学」とも呼ばれました。
数ある著作の中でも、1663年に刊行された『芸林彙考・飲食篇(げいりんいこう・いんしょくへん)』は、
中国古代の食文化を総合的・体系的にまとめた画期的な文献として、現在も高く評価されています。

『芸林彙考・飲食篇』の構成と内容

『芸林彙考・飲食篇』は全7巻から成る大作で、古代から明代に至るまでの飲食に関する文献を網羅的に収集・整理したものです。
沈自南は、当時の食文化を以下の6つのカテゴリーに分類して論じています。

  1. 饔膳類(ようぜんるい):主食や基本的な食事について
  2. 羹豉類(こうしるい):スープや調味料に関する項目
  3. 粉饎類(ふんしるい):粉物料理(麺類・餅など)
  4. 炰脍類(ほうかいるい):肉料理・魚料理の調理法
  5. 酒醴類(しゅれいるい):酒類や発酵文化について
  6. 茶茗類(ちゃめいるい):茶文化とその礼法について

この分類により、単なる料理書ではなく、食材の性質・歴史・文化的背景を一体的に理解できる構成となっています。

医食同源の思想と養生論

沈自南の『芸林彙考・飲食篇』が特に注目されるのは、
中医学の立場から「食と健康の関係」を明確に論じた点です。

各章では、食材の効能や体への影響を考証し、食療(しょくりょう:食による治療)の理論を展開しています。
たとえば、穀物・肉・野菜・茶・酒といった日常的な食品を、陰陽・五行・臓腑理論の観点から整理し、
「どの体質に、どの食べ方が良いか」を示しています。

また、食事の礼儀作法、季節ごとの食養生、調理技法にまで言及しており、
まさに**「医食同源」を体系化した先駆的著作**といえます。

食文化史の一次資料としての価値

沈自南の研究の優れている点は、単に過去の文献を引用するだけでなく、
それらを時代・地域・食材の観点から再整理し、体系的に考証していることです。

このため、『芸林彙考・飲食篇』は現代における中国古代飲食史・医食文化研究の最重要一次資料の一つとされています。
料理の起源や酒・茶の発展過程、食と健康の関係を知る上でも欠かせない文献です。

沈自南の幅広い学問的業績

沈自南は、食文化研究にとどまらず、『歴代記史考異』『明五朝紀事本末』『楽府箋題』などの史学・文学作品も著しています。
これらの著作には、歴史家としての分析力と文人としての感性が見事に融合しており、
彼の学問が単なる知識の寄せ集めではなく、深い洞察に基づく体系的なものであったことがわかります。

食を通して見る「人と自然の調和」

沈自南の思想の根底には、「食は天地の恵みであり、人の命を支えるものである」という哲学があります。
『芸林彙考・飲食篇』は、単なる食の百科事典ではなく、
人と自然の調和を重んじる東洋的な世界観を体現した書物なのです。

この書を通して、私たちは古代中国の食文化だけでなく、
「食べること」そのものに込められた生命への敬意を学ぶことができます。


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この記事を書いた人

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー 西 智彦(臨床歴20年)

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー 
西 智彦(臨床歴20年)

鍼灸師、マッサージ師の国家資格と医薬品登録販売者の資格を持ち、学術発表症例発表実績として第24回経絡治療学会学術大会東京大会『肝虚寒証の症例腰痛症』等、また伝統漢方研究会会員論文集の学術論文からメディア取材まで幅広い実績もあります。
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