漢方コラム
心と体をあたためる、冬の養生

冬になると、手足の冷えがひどくなったり、朝起きるのがつらくなったりしていませんか。疲れがなかなか取れない、肩こりや頭痛が増えた、なんとなく気持ちが沈みがち。こうした不調は、特に40代以降の女性に多く見られます。
これは単なる「年のせい」ではなく、冬という季節の特性と体の変化が重なって起こる、自然な体からのサインです。そして、このサインに気づき、適切に対応することで、冬を心地よく過ごすことができます。
東洋医学には「冬の養生」という考え方があり、日々の暮らしの中で心と体を温める知恵が詰まっています。この記事では、特別な道具や高価なものは必要ありません。食事や生活習慣の中で、今日から実践できる具体的な方法をご紹介します。
目次
冬の養生とは?~東洋医学の知恵から学ぶ~
「養生」とは、病気を治すことではなく、病気にならないように日々の生活の中で心身を整えていくことを意味します。つまり、健康を「守り、育てる」ための暮らし方の知恵です。この考え方は、数千年の歴史を持つ東洋医学の中で大切にされてきました。
東洋医学では、冬は「陰」の季節とされています。陰とは、静かで内側に向かうエネルギーのこと。自然界を見ても、植物は葉を落とし、動物は冬眠に入り、大地はエネルギーを内に蓄えます。これは、春に向けて力を貯める大切な準備期間なのです。
私たち人間も、この自然のリズムに合わせて過ごすことが、冬の養生の基本です。具体的には、「温める」「休める」「補う」という3つの柱があります。体を温め、十分な休息を取り、必要な栄養を補う。このシンプルな原則を、日々の暮らしの中で実践していくことが、冬を健やかに過ごす秘訣です。
特に40代以降の女性は、ホルモンバランスの変化により体温調節機能が不安定になりやすく、冬の養生がより大切になります。自分の体と丁寧に向き合うことで、冬の不調を和らげることができるのです。
なぜ冬は体が冷えるのか
冬になると冷えがひどくなるのには、いくつかの理由があります。まず、気温が下がると、体は熱を逃がさないように血管を収縮させます。これにより、特に手足などの末端への血流が減少し、冷えを感じやすくなります。
40代以降の女性の場合、さらに複雑な要因が重なります。基礎代謝が徐々に低下することで、体が作り出す熱の量が減少します。また、ホルモンバランスの変化により、自律神経が不安定になり、体温調節がうまくいかなくなることもあります。
冷えは、単に「寒い」と感じるだけの問題ではありません。血流が悪くなることで、疲労感、肩こり、頭痛、不眠などさまざまな不調を引き起こします。また、免疫力の低下にもつながり、風邪を引きやすくなることもあります。
そして忘れてはならないのが、心と体のつながりです。体が冷えると気分も沈みがちになり、逆に心が疲れていると体も冷えやすくなります。だからこそ、冬の養生では体だけでなく心も温めることが大切なのです。
心と体を整える食事の工夫
冬の養生で最も大切なのが、毎日の食事です。食べるものを少し意識するだけで、体の内側から温まり、心も満たされます。ここでは、すぐに実践できる食事の工夫をご紹介します。
体を温める食材
東洋医学では、食材にも「体を温める性質」と「体を冷やす性質」があると考えます。冬は、体を温める食材を積極的に取り入れましょう。
特におすすめなのが根菜類(大根、にんじん、ごぼう、れんこん)です。土の中で育つ野菜は、体を芯から温める力があります。じっくり煮込むことで、その効果はさらに高まります。
また、生姜、ねぎ、にんにくなどの薬味も、血行を良くし体を内側から温めます。生姜は特に、体を温める代表的な食材です。お料理に少し加えるだけで、ぐんと温め効果が増します。
そして、白菜、ほうれん草、春菊、かぼちゃなど、冬が旬の食材には、寒い季節に必要な栄養素がたっぷり含まれています。旬の食材を選ぶことは、自然のリズムに合わせた養生の基本でもあります。
食事の取り方
何を食べるかと同じくらい、どう食べるかも大切です。温かい料理を食べる、よく噛んでゆっくり食べる、朝食を抜かない。この3つを心がけるだけで、体の温まり方が変わります。
鍋料理、スープ、根菜の煮物、生姜入りの紅茶などがおすすめです。温かいものを食べることで、胃腸が活発に働き、全身に熱が巡ります。また、よく噛むことで唾液がたくさん出て、消化吸収が良くなるだけでなく、顔の血行も良くなります。
朝食は一日のエネルギー源です。忙しい朝でも、温かいスープや白湯を飲むだけで、体温が上がり、代謝も良くなります。一方、冷たい飲み物や生野菜、南国の果物は体を冷やすため、冬は控えめにしましょう。
日常生活で実践できる温め習慣
食事とともに、日々の生活習慣を少し見直すだけで、体は確実に温まります。無理なく続けられる、シンプルな温め習慣をご紹介します。
入浴で体を芯から温める
シャワーだけで済ませていませんか。冬は、ぜひ湯船にゆっくり浸かる習慣をつけましょう。38~40度のぬるめのお湯に15~20分程度浸かることで、血行が良くなり、体が芯から温まります。
入浴は、体を温めるだけでなく、リラックス効果も高く、自律神経を整える働きがあります。好きな香りの入浴剤を使うと、心も温まり、より深いリラクゼーション効果が得られます。
質の良い睡眠
冬は、自然のリズムに合わせて、いつもより少し早めに寝ることを心がけましょう。十分な睡眠は、体を回復させ、免疫力を高めます。
寝る前の1時間は、スマートフォンやパソコンの画面を見ないようにすることも大切です。ブルーライトは睡眠の質を下げてしまいます。代わりに、温かい飲み物を飲みながらゆったり過ごすと、質の良い睡眠につながります。
「三首」を温める
首、手首、足首の「三首」を温めると、効率よく全身が温まります。この3カ所は皮膚が薄く、太い血管が通っているため、ここを温めることで血液が温まり、全身に温かい血液が巡ります。
マフラーやストール、アームウォーマー、レッグウォーマーを活用しましょう。また、腹巻きで内臓を温めることも大切です。お腹が温まると、全身の血行が良くなり、冷えが改善されます。
軽い運動
冬は寒くて体を動かすのがおっくうになりがちですが、適度な運動は血行を促進し、体を温めます。激しい運動は必要ありません。軽いストレッチやヨガ、室内での体操で十分です。
晴れた日には15分程度の散歩もおすすめ。日光を浴びることで、体内時計が整い、心も明るくなります。体を動かすことで、心も体もポカポカと温まります。
心を温めることの大切さ
冬の養生で見落とされがちなのが、「心を温める」ことの大切さです。体と心は深くつながっています。心が冷えていると、どんなに体を温めても、本当の意味での温かさは得られません。
冬は、活動的になろうと無理をするのではなく、ゆったりとした時間を持つことが大切です。好きな本を読む、お気に入りの音楽を聴く、温かいお茶を飲みながらぼんやりする。そんな何でもない時間が、心を温めてくれます。
また、自分を労わることも忘れないでください。40代以降の女性は、家事や仕事、家族の世話などで忙しく、つい自分のことは後回しにしがちです。でも、冬こそ自分を大切にする季節です。「頑張りすぎない」「無理をしない」ことも、立派な養生なのです。
深い呼吸をすることも、心を温める良い方法です。ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。この簡単な呼吸法を一日に数回行うだけで、心が落ち着き、体もリラックスします。
まとめ
冬の養生は、特別なことをする必要はありません。毎日の食事で体を温める食材を選ぶこと、湯船にゆっくり浸かること、早めに休むこと、自分を労わること。こうした小さな積み重ねが、心と体を整えていきます。
大切なのは、自分の体と向き合い、その声に耳を傾けることです。「今日は冷えているな」「疲れているな」と感じたら、無理をせず、体を温め、休ませてあげましょう。そんな小さな気づきと優しさの積み重ねが、冬を健やかに過ごす秘訣なのです。
まずは、今日からできることを一つだけ始めてみませんか。温かいスープを飲む、湯船に浸かる、早めに布団に入る。どんな小さなことでも構いません。その一歩が、心と体を温める冬の養生の始まりです。温かい冬をお過ごしください。
分からないことや身体の不調を感じたら、ぜひ私たち西漢方薬局にご相談ください!
これからの季節を一緒に乗り越えていきましょう。
この記事を書いた人

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー
西 智彦
鍼灸師、マッサージ師の国家資格と医薬品登録販売者の資格を持つ。
臨床歴20年の経験を活かし、子供からご高齢の方々の幅広い世代のお悩み、病気の改善のお手伝いをさせていただきます。
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