漢方コラム
乾燥の季節。津液を守って体を潤す

秋から冬へと移りゆくこの季節。
空気が乾き、肌や喉のカサつきを感じる方も多いのではないでしょうか。
朝起きたときに喉がイガイガしたり、手の甲が粉をふいたり。
外の空気だけでなく、室内の暖房も体から水分を奪い、知らず知らずのうちに“潤い不足”が進んでいます。
漢方では、この体の中をめぐる「潤い」を津液(しんえき)と呼びます。
津液とは、血液だけでなく、汗、涙、唾液、リンパ液など、体のすみずみに流れるあらゆる水分のこと。
肌をしっとり保ち、内臓をスムーズに働かせ、呼吸や消化を支える、まさに「いのちの潤い」です。
今日は、この津液を守り、体を内側から潤すための、やさしい暮らしの工夫をお伝えします。
目次
津液とは?体をめぐる“潤いの源”
津液は、私たちの体にとって欠かせない「水のめぐり」。
血液が川のように流れて栄養を運ぶなら、津液はその川辺をうるおす水のような存在です。
津液がしっかりあると、肌はしっとりし、目や口の粘膜も守られ、気持ちも安定します。
反対に津液が不足すると、乾燥肌、便秘、喉や鼻の乾き、寝つきの悪さ、さらにはイライラや集中力の低下といった不調が現れます。
これは、体が“内側から乾いている”サインです。
秋冬は、乾燥した空気や寒さにより、津液が奪われやすい季節。
また、忙しさやストレス、睡眠不足なども津液を減らす原因になります。
だからこそ、季節の変わり目には「潤いを守る意識」を持つことが大切なのです。
食事で潤いを補う。津液を育てる食材たち
潤いを保つには、まず“食べること”から見直してみましょう。
津液を守る食事のキーワードは「やさしく」「しっとり」「温かい」。
体を潤す食材を日々の食卓に取り入れることで、内側からのケアができます。
たとえば——
- 白い食材:れんこん、長芋、ゆり根、豆腐、白きくらげ、梨などは、肺や皮膚を潤す働きがあるといわれます。
- ナッツや種子類:ごま、くるみ、アーモンドは、ほどよい油分で乾きを防ぎます。
- 穀類:もち米やはと麦、黒米は、水分を蓄えやすく、体を温めながら潤します。
様々なレシピがありますが、1つご紹介したいと思います!
レシピ:れんこんと白きくらげの潤いスープ
材料(2人分)
れんこん100g、白きくらげ5g(乾物)、鶏むね肉80g、生姜1かけ、塩少々、水400ml
作り方
- 白きくらげは水で戻し、食べやすくちぎる。
- 鶏むね肉・れんこん・生姜を薄切りに。
- 鍋にすべての材料と水を入れ、弱火で20分ほど煮る。
- 塩で味を整え、仕上げにごま油をほんの少し。
れんこんは肺を潤し、白きくらげは津液を補う代表食材。
生姜とごま油の温かさがめぐりを助け、体の内側からしっとり整えます。
これらを温かいスープや煮込み料理で取り入れると、吸収も良く、胃腸への負担も少なくなります。特に、れんこんと鶏肉のスープ、豆腐と白きくらげのとろみ煮などは、体を優しく潤してくれる一品です。
また、甘いものをとるなら、精製された砂糖よりも、自然の甘みを選ぶのがおすすめ。
蜂蜜、さつまいも、デーツなど、体を乾かさずにエネルギーを与えてくれます。
反対に、乾燥を助長するのは、唐辛子などの刺激物、アルコール、コーヒーの摂りすぎ。
香辛料を使う場合も、潤い食材と組み合わせて“バランス”を意識しましょう。
津液を減らさない生活の工夫
どんなに良い食事をしても、生活が乱れていては、体の潤いは逃げていってしまいます。
津液を守るには、日々の習慣をやさしく整えることが大切です。
まず意識したいのは、睡眠と休息。
夜更かしや、考えごとを抱えたまま眠ることは、体の水を乾かす原因になります。
寝る前1時間はスマホを手放し、あたたかい白湯をゆっくり飲みながら、呼吸を整える時間を。
心が静まると、体の中のめぐりも穏やかになります。
お風呂もおすすめの養生法です。
熱すぎない38〜40℃のお湯にゆっくり浸かることで、血流と津液の循環が整い、肌も潤いを取り戻します。
湯上がりには、タオルで押さえるように水分を拭き取り、オイルやクリームで保湿を。
“湯上がり3分以内”が潤いキープのコツです。
室内では、加湿器やアロマディフューザーを使って湿度を保ちましょう。
ラベンダーやサンダルウッドなど、リラックス効果のある香りは、心にも潤いを与えてくれます。
心の乾きにも、やさしい潤いを
漢方には「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。
心と体はひとつであり、どちらかが乱れるともう一方にも影響が出る——そんな教えです。
焦りや不安、ストレスは、呼吸を浅くし、体の中の潤いを減らしてしまいます。
反対に、安心して笑える時間や、ほっとできる空間は、津液を育て、体をやわらかく保ちます。
心の潤いを取り戻すには、“何もしない時間”を持つことも大切です。
予定の詰まった一日の中で、ほんの5分でも目を閉じて深呼吸をする。
窓を開けて風を感じる。
そうした短い「間(ま)」が、心の水を満たしてくれます。
また、「頑張らなければ」「効率よく過ごさなければ」と思うほど、心は乾いていきます。
季節が冬へ向かうように、私たちの心も、休息を求める時期があります。
立ち止まること、ゆるめることも、立派な“養生”なのです。
おすすめは、夜のひとり時間を五感で楽しむこと。
お気に入りの茶葉を淹れ、湯気を見つめながら香りを味わう。
静かな音楽を流し、心の奥にゆとりをつくる。
こうした小さな ritual(習慣)が、体と心をしっとりと潤してくれます。
“心が潤う”というのは、情報ではなく、感覚を取り戻すことでもあるのです。
津液を補う漢方と、相談のすすめ
津液の不足が進むと、乾燥肌だけでなく、疲れやすい、便が硬い、喉が渇くといった症状が現れることもあります。
そんなときは、食事や生活に加えて、漢方の力を借りるのも一つの方法です。
ただし、漢方は「人に合わせる」医学です。
同じ“乾燥”でも、冷えが原因の人もいれば、熱がこもっている人、ストレスが影響している人もいます。
ですから、漢方薬を選ぶときは、薬局でじっくりと相談し、あなたの体質や生活リズムに合った処方を見つけることが大切です。
当薬局でも、食事や睡眠の相談を含めて、体全体を見つめながらサポートしています。
漢方は、病気を治すだけでなく、“整える”ための知恵でもあります。
乾燥の季節こそ、自分の体の声に耳を傾けてみましょう。
まとめ|潤いを大切に生きるということ
乾燥の季節に津液を守ることは、自分を大切にすることでもあります。
肌を潤すスキンケアのように、心と体にも「保湿」をしてあげる。
それが、健やかに冬を過ごすための秘訣です。
食事、休息、そして穏やかな気持ち。
そのすべてが、あなたの体の中で水となり、血となり、今日も静かにめぐっています。
“潤いを意識する”という小さな心がけが、きっと体を軽くし、心をしなやかにしてくれるはずです。
どうぞ、この冬は、あなたの体の中にある水を大切に。
津液を守りながら、やさしく、しっとりと、季節を過ごしていきましょう。
分からないことや身体の不調を感じたら、ぜひ私たち西漢方薬局にご相談ください!
これからの季節を一緒に乗り越えていきましょう。
この記事を書いた人

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー
西 智彦
鍼灸師、マッサージ師の国家資格と医薬品登録販売者の資格を持つ。
臨床歴20年の経験を活かし、子供からご高齢の方々の幅広い世代のお悩み、病気の改善のお手伝いをさせていただきます。
どうぞお一人で悩まずに、気軽にご相談ください。


