漢方コラム
冷えと乾燥がダブルで来る季節 ― 血(けつ)の巡りを整える

2月。暦の上では春を告げる「立春」を過ぎたとはいえ、現実は1年で最も寒さが厳しく、空気の乾燥もピークを迎える時期です。朝、布団から出るのが辛く、鏡を見れば血色のなさに溜息をつき、タイツを脱げば粉を吹くような乾燥肌に驚く……。
そんな毎日を過ごしていませんか?
特に30代を過ぎてからの2月は、蓄積した冬のダメージがドッと押し寄せてくる季節です。なんとなく元気がでない、理由もなく不安になる、どれだけ温めても芯まで温まらない。その不調は、あなたの心と体が「もう限界!」と叫んでいるサインかもしれません。
漢方の知恵では、この時期の過ごし方こそが、健やかな春を迎えられるかどうかの分かれ道だと考えます。今回は、冬真っ只中の今すぐ取り入れたい「血(けつ)」の巡りを整え、自分をいたわる究極の養生法をお伝えします。
目次
1. なぜ今、私たちの体は「血(けつ)」を求めているのか
漢方には「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という、健康を支える3つの柱があります。中でも、この厳冬期に最も消耗し、そして私たちを救ってくれるのが「血(けつ)」です。
「血」は全身を巡る温かな「潤いの源」
漢方で言う「血」は、栄養を運ぶだけでなく、精神を安定させ、全身を潤し、そして「熱」を運ぶ役割を担っています。
今、あなたが感じている冷えは、外気温の低さだけが原因ではありません。寒さによって血管が縮み、さらに乾燥によって「血」そのものが煮詰まって不足することで、温かなエネルギーが全身に届かなくなっているのです。 「血」が足りなくなると(血虚:けっきょ)、体は冷えるだけでなく、心もカサカサと乾燥し、夜の不安感や寝つきの悪さとして現れます。
つまり、2月の不調を乗り越えるには、「血を補い、かつ固まらせずに巡らせる」ことが最短ルートなのです。
2. 30代からの女性が、2月の「揺らぎ」を乗り越える理由
30代以降は、女性のバイオリズムが少しずつ変化し始める時期です。漢方のバイブル『黄帝内経(こうていだいけい)』では、女性の体は7の倍数で変化すると説かれています。35歳を過ぎる頃から、生命エネルギーの源である「腎(じん)」が少しずつ落ち着き、それに伴って「血」の巡りもデリケートになります。
冬の寒さは、この「腎」と「血」にダイレクトに負担をかけます。若い頃なら気合いで乗り切れた2月の寒さが、今は「心身の揺らぎ」としてズシンと響くのは、決してあなたが弱いからではありません。体が「もっと丁寧にメンテナンスしてほしい」という新しいフェーズに入ったという、大切な合図なのです。
3. 冬真っ只中!今日から変えるべき「3つのレスキュー習慣」
今、この瞬間から始められる、冷えと乾燥への具体的な対策をご紹介します。
① 「23時の壁」を越えない:血の工場を稼働させる
2月は、どんな高級なサプリメントよりも「睡眠」が薬になります。漢方の考えでは、23時から深夜1時は、1日の中で最も「血」が新しく作られるゴールデンタイム。 この時間に起きていることは、体という工場の電源を切らずに、無理やり残業させているようなものです。冷えがひどい時ほど、せめて2月だけは23時にお布団に入り、新しい血を作る「工場」を優先的に稼働させてあげましょう。
② 「目」を休めて、血の漏出を防ぐ
意外に知られていないのが、スマホやパソコンの使いすぎが「血」を激しく消耗させるということです。漢方では「目は血によって養われ、また血を消費する場所」とされています。 冬真っ只中、ただでさえ不足しがちな血を、画面を見続けることで垂れ流しにするのはもったいないことです。仕事の合間の3分間、あるいは寝る前の30分、完全に目を閉じて「血を内側に閉じ込める」時間を作ってください。これだけで、翌朝の肌の潤いが変わります。
③ 「腎」と「血」を温めるピンポイント防寒
全身を厚着するのも良いですが、効率的に温めるなら「首・手首・足首・腰(おへその真裏)」の4点を徹底ガードしましょう。 特に足首の内側にある「三陰交(さんいんこう)」は、女性の血の巡りに特効のある大切な場所。2月の外出時はもちろん、家の中でもレッグウォーマーを「足首」ではなく「かかと」まで覆うように履くのが、冷えと乾燥を防ぐ裏技です。
4. 食べて体をレスキューする「冬の潤い&温め食材」
「冷えと乾燥がダブルで来る」今、台所はあなた専用の薬局になります。スーパーで選ぶべき、2月のレスキュー食材をご紹介します。
「黒」の力で芯を温める
冬は五行で「黒」の季節です。黒い食材は、生命力の源である「腎」をバックアップし、体を芯から温めます。
- 黒豆、黒ごま、黒キクラゲ、ひじき、海苔、黒米 これらは、30代以降の女性の「血」をサポートする強力な味方です。朝のヨーグルトに黒ごまを混ぜ、お味噌汁に黒キクラゲを入れる。そんな小さな工夫が、体の「熱源」を守ります。
「赤」の力で血を補充する
冷えがひどく、顔色がくすんで見える時は、赤い食材でダイレクトに血を補いましょう。
- ナツメ、クコの実、人参、小豆、赤身の肉(羊や牛) 特に、ナツメやクの実はお茶に入れて飲むのもおすすめです。ティーカップの中で赤くふやけた実を食べるだけで、内側からじんわりと温かさが広がります。
「白い食材」で肌と喉にバリアを張る
乾燥で肌がピリついたり、喉がイガイガしたりする時は、白い食材が救世主になります。
- レンコン、山芋、白ごま、豆腐、白キクラゲ、松の実 これらは「肺」を潤し、肌のバリア機能を高めてくれます。2月は、温かい豆乳スープにすりおろした山芋を加えるような「白くて温かいメニュー」が最高のご馳走です。
5. 心の冷えを溶かす「引き算」と「内観」
冬真っ只中の2月は、心もギュッと縮こまりやすい時期です。「早く春が来てほしい」「どうしてこんなに気分が沈むんだろう」と焦る必要はありません。
東洋の思想では、冬は「蔵(ぞう)」つまり「蓄える」季節です。植物が根にエネルギーを溜め込み、春の芽吹きを静かに待つように、人間もまた、無理に活動範囲を広げず、内側を充実させるべき時期なのです。
- SNSを見る時間を減らす(引き算)
- 丁寧に入れたお茶を、香りを楽しみながら飲む(内観)
- 「今日も一日、寒さに耐えて頑張ったね」と自分に声をかける
こうした「心の保湿」が、体の緊張を緩め、結果として血管を広げて血の巡りを良くしてくれます。冬の厳しさは、自分自身の本質と対話するための、自然界からのギフトかもしれません。
おわりに
2月の厳しい寒さは、あともう少し。ですが、この「あともう少し」の時期にどう自分をいたわるかで、春に咲く笑顔の輝きが変わります。
完璧な養生を目指す必要はありません。 「今夜は早めに寝よう」 「お味噌汁に黒ごまを振ってみよう」 「お風呂で足首を優しくさすってみよう」
そんな、自分への小さなおもてなしを一つ、二つと積み重ねていってください。あなたが自分を慈しむたびに、滞っていた「血」が動き出し、冷えた心と体に温かな灯がともります。
冬真っ只中の今だからこそ、自分の体という唯一無二のパートナーを、誰よりも大切に扱ってあげてください。春は、もうすぐそこまで来ています。その時、あなたが潤いに満ちた最高の笑顔でいられるように、漢方の知恵をそっと寄り添わせていただければ幸いです。
身体の不調、漢方を取り入れてみたい、そんな時はぜひ私たちにご相談くださいませ!
この記事を書いた人

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー
西 智彦
鍼灸師、マッサージ師の国家資格と医薬品登録販売者の資格を持つ。
臨床歴20年の経験を活かし、子供からご高齢の方々の幅広い世代のお悩み、病気の改善のお手伝いをさせていただきます。
どうぞお一人で悩まずに、気軽にご相談ください。


