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漢方コラム

薬膳とは?毎日の食事が、体づくりの基本

漢方薬店では、よく薬膳(やくぜん)のことも尋ねられます。
漢方=漢方薬と思われがちですが、実はそうではありません。
東洋医学の治療法のひとつに漢方薬を用いた治療があるだけで、他にも、養生・気功・整体・薬膳・鍼灸などを含んだ幅広い意味で使われるのです。
今回は、この薬膳について説明したいと思います。

薬膳とは?

薬膳とは中医学理論に基づいて食材、中薬と組合せた料理であり、栄養、効果、色、香り、味、形など全てが揃った食養生の方法です。
よく薬膳料理とも言われますが、実は、「膳」自体に「料理」の意味が含まれているのです。
この薬膳と言う言葉自体は1980年代に中国で生まれた、比較的新しい言葉なのですが、その歴史は古く紀元前までさかのぼり、そして先人たちの知恵がたくさん積み重ねられたものです。
また生薬などを使っていなくても、中医学理論に沿っていれば、薬膳と呼ぶことができます。

薬膳の起源と歴史

薬膳が誕生したのは、紀元前までさかのぼること今から3000年ほど前の中国。「神農(しんのう)」という神が手に入る植物を自らの口の中に次々と入れて確認したのが起源と言われています。
お腹をふくらませるのに良い植物は?具合が悪いときに体の調子を整える植物は?併せて毒は含まれていないか、効能はどのようなものか?等を自身を使って一つ一つ確認して行ったそうです。
中国でその神農は、生薬学の祖とも呼ばれていて、それらをまとめた『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という古文書が残っています。
今では日常でよく食される高麗人参や大棗(ナツメ)、胡麻、枸杞(クコ)、山薬(ヤマイモ)などがその古文書にて確認できるそうです。

薬膳の考え方

私たちの身体は、自分が食べているものから作られています。この食べるという行為は一生続く大切なものです。
だからこそ一人ひとりの体調や体質、季節や天候をよく観察し、その結果に見合った食材と、その調理法を決め、この毎日の暮らしの中に取り入れることが必要になります。
つまり薬膳とは、「体の声を聞くこと」が基本中となるのです。

少し難しいと思われるかも知れませんが、中医学理論では、五穀為養(五穀は体を養う)、五果為助(果物は体の働きを助ける)、五畜為益(肉類は体を補う)、五菜為充(野菜は体を充実させる)、気味合而服之、以補益精気(これら食材と香り、味をバランスよくあわせて食べれば、精気を補い強められる)と解説されています。

■五穀:麦、黍、稗、稲、豆;穀類は主な食材として五臓を養う。
■五果:スモモ、杏、大棗、桃、栗;果物は五臓の働きを助ける。
■五畜:鶏、羊、牛、犬(馬)、豚;肉類は五臓を補う。
■五菜:葵、藿、薤、葱、韭;野菜により五臓を充実させる。

簡単に言えば、このように、多くの食材をバランスよく組合せることで身体の精気を補うことが出来ると言われているのです。

また自分の体と向き合うために「五味」を知るとことも大切だと言われています。
漢方では、食べ物の性質を知る方法として「五味」とは「酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味(かんみ=塩からい味)」のことです。
前回お伝えした五気と同様に五行の法則にのっとり、食べ物をその味の違いによって5つの性質に分類したものです。
また、五味と五臓は深く関係していて、特定の味を体が欲しているときは体のある部分が疲れていたり、弱っていたりすることもあるのです。

■酸味
酸には収斂作用(しゅうれんさよう)と固渋作用(こじゅうさよう)があり、五臓では肝に関連します。イライラした時などには酸味の強いものを口に入れることでストレスを発散させることができます。

■苦味
苦には余分な熱を取り去る清熱作用と余分な水分を取り除き、柔らかくなりすぎたものを固くする燥湿堅化作用があり、五臓では心に関連します。出血性疾患や下痢止めの効果が期待できます。

■甘味
甘には滋養作用と弛緩作用があり、五臓では脾に関連します。
滋養作用とは、栄養を与える作用のことであり、弛緩作用とは緊張した状態を和らげる作用です。

■鹹味
辛味には、汗をかくことを促進する発散作用と、気血の巡りを良くする運行作用があります。
五臓では脾に関連します。

■鹹味
鹹には軟化作用と散結作用があり、これらはどちらも固いものをやわらかくする作用のことです。
しこりをやわらくするなどの作用もあります。五臓では腎に関連します。

このように薬膳というのは奥深いものなのです。
「薬」と言う言葉が入っているがゆえに、漢方の生薬などの食材で作られた料理をイメージされがちですが、実は、それは薬膳の一面だけのことです。

薬膳キーワード

また薬膳を理解する上で必要なキーワードが3つあります。

●身土不二(しんどふじ・しんどふに)
身土不二とは、「身と土、二つにあらず」、つまり人間の体と人間が暮らす土地は一体で、切っても切れない関係にあるという意味の言葉です。
言葉の起原は大昔の仏典に遡ることができますが、現在では食の思想として「その土地のものを食べ、生活するのがよい」という意味です。
本来の中医学としての言葉では無いのですが、その土地で生き抜く力を持った食べ物を頂き、人も健康に生きて行くといこうという考え方です。
地産地消というワードにも似ていますね。

●冬病夏治(とうびょうかじ)
「冷えが原因で冬にかかる病気を、陽気が盛んな夏の間に治してしまおう(予防しよう)」といった意味の言葉です。
夏の間に、体が必要とする料理をしっかり食べて体調を整え、冬には病気知らずの体にしようという考え方です。
〈オススメの食材〉
ニラ、ネギ、ピーマン、カボチャ、羊肉、鶏肉、鮭、エビ、ナマコ、くるみ きのこ等。

●医食同源(いしょくどうげん)
よく聞く言葉だと思います。病気を治療するのも日常の食事をするのも、ともに生命を養い健康を保つためには欠くことができないもので、源は同じだという考えです。
この医食同源は日本人による実は、造語と言われており、「薬食同源」が本来の言葉です。
中国では「すべての食べ物に薬効がある」「誤った食事は病を生み、正しい食事で病は自ずと癒える」と語られています。

薬膳に用いられる正薬

食べる人の体調等に合わせ、3の薬膳の考え方をもとに食材を選ぶのですがここに生薬(しょうやく)がプラスされます。
薬膳に生薬を配合した献立が多いのですが、普通の食材だけを使って作る薬膳もありますので必ずという訳ではありません。
生薬の大部分は植物性のものです。中国では、中薬(ちゅうやく)といわれています。

薬膳に用いられることが多い代表的なものは下記です。

●海松子(かいしょうし):松の実、
●金針菜(きんしんさい):ユリ科のホンカンゾウの花のつぼみ 、
●銀耳(ぎんじ):白木耳(しろきくらげ)
●枸杞子(くこし):一般にクコの実と呼ばれ、ナス科植物のクコまたはナカバクコの果実を干したもの。
●紅花(こうか、べにばな)
●山査子(さんざし): バラ科のサンザシの実
●大棗(たいそう): クロウメモドキ科サネブトナツメの実
●蜂花粉 百合(びゃくごう): ユリの根
●竜眼肉(りゅうがんにく)ムクロジ科リュウガンの仮種皮
●甘草(かんぞう): マメ科のカンゾウの根

薬膳は基本的にオーダーメイドなものです。生薬について、いろいろアドバイスもできますのでお気軽に相談ください。

身近な薬膳

実は、身近な食材の持つ機能(作用・性)を知ることで、簡単に薬膳を取り入れることができるのです。もしかすると知らず知らずの内に取り入れている自ら可能性もあります。
その一例を紹介します。
冬は1年のなかでも特に「陰」の力が強まっているとされる時期で、寒さで体の機能が冬眠状態になってエネルギー代謝も低下しがちな時期です。
キーワードで冬病夏治(とうびょうかじ)というもの言葉を紹介しましたが、もうひとつ補陽温腎といって、寒い冬に体を温める食品と腎臓機能を高める食品を取り入れ、この「陰」と「陽」のバランスを保つことが冬を健やかに過ごす秘訣という考え方です。

●みかん
こたつに乗っているみかん。よく見かけると思います。昔からなじみのある、この冬の名物です。10月~4月が旬のみかんは、果実のなかでもビタミンCやカロテンの含有量が多いことが特徴と言われています。このみかんが、実は体を温める働きがあるのです。1日に2~3個食べれば所要量を摂取できます。

●「ショウガ」
ショウガには「ショウガオール」という体を温めてくれる成分が含まれています。
これはショウガを加熱することでショウガに含まれている成分が変化して出来るもので、主に温かい状態で食べる料理にはぴったりです。
しょうが湯などや紅茶などの飲み物に入れて取り入れたいものです。

このように、身近な食材の機能を知り、少し意識して上手に使えばより健康的な生活が目指せるのも薬膳のいいところなのです。

まとめ

薬膳を始めるにはライフスタイルに合わせて、できることから、楽しく、おいしく、をモットーに継続していくことが大切です。
皆さんも、少し薬膳の考え方を採り入れて、ご自身やご家族の体と健康を、見つめ直してみませんか?

この記事を書いた人

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー 西 智彦

西漢方薬店 漢方処方アドバイザー 
西 智彦

鍼灸師、マッサージ師の国家資格と医薬品登録販売者の資格を持つ。
臨床歴17年の経験を活かし、子供からご高齢の方々の幅広い世代のお悩み、病気の改善のお手伝いをさせていただきます。
どうぞお一人で悩まずに、気軽にご相談ください。

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